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26th June.2004

理化学研究所一般公開を見学してきました。〜その2〜

レポート:長谷川 尚哉

「理化学研究所の一般公開を見てきました」
中村先生の講演はとてもすばらしかった。なにしろ何でもゲノムって?遺伝子?っていわれても僕らの知っていることは「性染色体」や「飲んべえ遺伝子」、最近では「遺伝子組み換え大豆」などでしたから。遺伝子を組み換えてまで自然をいじってしまっていいのだろうか?などと考えていたら、講義の意味合いも考えることはなかったであろう、と思います。しかし、人のゲノムを知るということがこの様に今後の医療に役立つ可能性を秘めている・・と思っただけでますます興味がわきました。これからもっと勉強したいと思います。さて、当日はもう一つ講演の予定がありました。それまでの時間を一般公開のパネル展示、横浜研究所のすばらしい植物達に向けてみようと思いました。

〜実はすごい物がありました〜
理化学研究所横浜研究所には世界の銘木が息づいています。ボクは鍼灸治療院を営んでいますが、もう一つの顔がアロマセラピストでもある。アロマテラピーは植物の作り出したエッセンスを用いるのですが、調べているうちにどうも植物が好きになってきた(笑い)。そこでデジカメを持って歩いてもどうも植物の写真ばかりを撮ってしまいます。横浜研究所には「これはどうしようもなくうれしいモノ」が息づいておりました。という訳。少々見てみましょう。左の植物はな〜に?近くで見ないとわからないな、と思います。ボクも近くでは見られなかったが・・・実はこれ、「リンゴの木」なのです。どうしてそれが理化学研究所に?この木にどうやらとてつもない秘密があるのです。

ん〜?遺伝子組み換えのヒト遺伝子を持ったリンゴ?違います。実はこれ、「ニュートンのリンゴ」なのです。ニュートンのリンゴってピンときませんね?ニュートン(Sir Isaac Newton:1643-1727)は万有引力、微分積分、反射望遠鏡などの発明で知られる大天才。彼が1687年「自然哲学の数学的諸原理」で発表した万有引力は僕たちも「庭のリンゴの木からリンゴが落ちるのを見て気がついた」とされている。そのリンゴの木は現在もニュートンの生家の庭先にあるのだそうな。この木は1964年に日本に寄贈された本物のニュートンのリンゴの木。"Newton Pippin"と呼ばれています。いつかこの木からも熟したリンゴの果実が落ちるでしょう。理化学研究所の研究員さんも落ちるのを見て新しいアイディアがひらめくのかもしれませんね。余談ですが、リンゴの木から落ちるのを本当に見て「お〜、万有引力」と気がついたのではなく、実はそのように様々な出来事に興味をもつニュートンの姿勢をリンゴの木のエピソードとして書いた書物が「ニュートンがリンゴの落ちるのをみて万有引力を思いついた」と理解されたからだそうです。

〜遺伝の草分け〜メンデルのブドウ
理化学研究所では遺伝の最先端の研究を遺伝子という視点から研究し続けています。では遺伝っていつの時代から考えられるようになったのだろう?そうです。遺伝学の祖メンデル(Gregor Johann Mendel:1822-1884)によってですね。メンデルはお医者さんでもなく、正式な学者さんでもない。一人の修道士さんだった。しかし、修道院は当時様々な学者を有し、研究をしていたんだそうな。そんな環境で学んだメンデルはそれまで植物が交配し、その親の要素を引き継ぐのは「液体のように混ざり合う」という概念( 混合遺伝)が正しくない事を実験により調べた偉人なのですね。彼は「遺伝粒子(後の遺伝子)」という概念を用いて「粒子遺伝」を提唱した。そのときに研究の対象となったのが元々は「エンドウ豆」の交配の実験でした。この実験により非常に難解な数学的理論「メンデルの法則」を発表したんだそうです。その後、修道院内では重要な産業であったブドウ酒の改良研究を行い、修道院の庭先にたくさんのブドウの木を育てていたんだそうです。そしてこの写真の木がそのうちの一本を挿し木した物。だからこのブドウの木、遺伝子を持つに至ったのにはメンデルが「人工授粉」を行ったからなのかもしれません。この木のブドウからブドウ酒を作ってリンゴの木の下で飲んだらどんなだろうか?(笑い)余談だが、彼は教師の資格試験、上級教師の資格試験などに失敗した経歴があるそうな。法則が世界的に話題になるには死後16年もたっていたんだそう。生前はただの人、死後に業績が認められたというお話でした。

〜植物の名付け親〜リンネ&トゥンベリーの月桂樹
次の植物はボク、アロマテラピーをする者にとって記念樹でもある重要な植物の写真です。なにやら遠くにあってじっくりと見ることは出来なかったんですが、これはローリエの木です。ローリエは植物学的には"Laurus nobilis"と記載されます。Laurus属のnobilis種。どうしてこの様な名前の付け方になったのか?これがリンネ(Carl von Linne:1707-1778)・トゥンベリー(C.P.Thumberg:1743-1828) の業績なのです。リンネは「システマ・ネイチャー(自然の体系)」をあらわし、動植物の分類法を体系づけたお人。トゥンベリーはリンネの弟子にあたる方。リンネの名前を冠する植物はたくさんあります。Lavandula officinalis. L、Rosmarinus officinalis L.等々。最後の大文字のLはリンネのLなのです。

この月桂樹はリンネがスウェーデンのウプサラ植物園の温室で育てていた数本のうちの1本。トゥンベリーがウプサラ植物園の園長だったときも「リンネの月桂樹」として大切に育てられていたそうです。で、この木がどうして小さいの?というのはスウェーデンのカロリンスカ研究所と理研のゲノム科学総合研究センターとの共同研究契約締結を記念して2002年に寄贈された物だからだそうです。Laurus nobilisはクスノキ科の植物の中でも成長中の酸素発生量が一番多い、とされている常緑広葉樹で、環境に優しいとされています。もちろん勝者の冠に用いられるギリシャ時代のエピソードも有名です。葉を折ると甘い、矯味のある独特な香りがしてきます。育ちも意外と早いはずなんですが、最近日本にやってきたのですね。成長が楽しみです。ところでトゥンベリーはシーボルト来日ののち、オランダ人と偽り(日本人には区別がつかなかったでしょう)、日本にやってきました。日本ではターヘルアナトミア(解体新書)を邦訳したメンバーでもある中川淳庵 と桂川甫周 らと懇意にしていたのだそうです。そしてスウェーデンに帰り、とても有名な『ツンベルグ日本紀行』 を刊行しました。 植物学、医学、博物学も含めて日本と諸外国を結んだ架け橋には偉大な人々が関わっていた、というわけです。

〜医学の授業はこの木の下で〜ヒポクラテスのスズカケノキ
さて、ひょろりと茂ったこの木は理研の植物の中では最も歴史の古い植物です。今を去ること2500年、ギリシャのコス島では「四体液説」を唱えたヒポクラテスが暑さをしのぎながらこの木の下で若い医療家に授業を行っていたのだそうです。この若木はコス島の原木から苗、主旨が取られ、記念樹として日本にも配られたうちの一本なのだそうです。大木に育つのが楽しみですね。ヒポクラテスの学派「コス学派がまとめたとされているヒポクラテス全集は右のような特徴を持っています。彼は医学の大系から呪術や迷信をそれまでの医学から取り除く大きな働きをしました。時代はコス学派からガレノス派を経て現代医学に到達しますが、基本となるヒポクラテスの哲学は「宣誓」に代表される規範をもとにした倫理体系を構築し、近代医学の柱となったことはご存じの通りです。理研の庭先にひっそりとたたずんでいる若木ですが、大木となるときには研究者の皆さんが談笑したり、最先端の医学に思いをはせたりするのではないかなと思いました。

ヒポクラテスの医療の特徴

○病状を正確に観察し記述する。病気よりも病人の現状を全体としてとらえ,将来の経過を正しく予知しようとする。
○環境条件が病気の発生や経過さらに人の体質気質に及ぼす影響を明らかにし,病気を自然現象として見る。
○粘液や胆汁などのいわゆる体液によって発病のメカニズムを合理的に説明しようとする。
○骨折や脱臼などの負傷に対し独特の包帯のしかたや整復のための補助器具を説く。
○病気の治療法としては自然の回復力を重視して食品法を主にし,それを病人の状態に合わせて指定する。

様々なパネル展示〜     レポート長谷川尚哉

さて、会場では様々なパネル展示がありました。そのうちのいくつかをご紹介。左は脂肪細胞の働き、と題されたパネル。肥満は悩みのタネですが、肥満になるのはエネルギーの過剰摂取とエネルギー消費のバランスが崩れた状態。特に脂肪細胞は皮下に多く、写真の右側のように皮下脂肪像となって映ります。しかしCT,MRIが出来てから内臓脂肪の問題もクローズアップされました。皮下脂肪より内臓脂肪は取りにくいとされています。いずれも食事、運動療法の対象となりますね。ただやせる事を考える前に脂肪細胞が身体にとってどのようなことをしてしまうのか?という点に注目した展示です。脂肪細胞は成人で250~300億個、さらに多い人では800億もになる人もいます。白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞という2タイプに分けられ、血液中のグルコースをインスリンの働きによって取り込み、中性脂肪に変え、貯蔵します。いわば貯蔵庫というのは皆さんがご存じのお話。ではなぜ脂肪が多いと問題になるのか?というところを。脂肪は蓄積されているばかりではなく出し入れをされている。それだけならいいのだが、実は糖尿病や高脂血症、動脈硬化には単純な遊離脂肪酸だけではなく、様々なアディポサイトカイン(adipocytokine :脂肪組織から産生分泌されるさまざまな内分泌因子)が原因となるというのがこのパネルです。アディポサイトカインには善玉と悪玉がある。たとえばアディポネクチン、レプチンなどはそれぞれ低い人に動脈硬化症、糖尿病が増えるわけ。レプチンは食欲を抑制したり、エネルギー代謝をあげたりする働きがあります 。

一方、悪玉アディポサイトカインの方はTNF-α(tumor necrosis factor -α:インスリン抵抗性を発現するということが近頃わかってきた。しかし大腸ガンの発生を抑制する因子でもある。)、PAI-1(Plasminogen activator inhibitor type- 1 :血中プラスミノーゲンをプラスミンに変換する酵素を阻害する物質、プラスミノゲンがプラスミンに活性化しないと血栓を溶解することが出来ず動脈硬化が進む事となる)などがあげられています。これら、アディポサイトカインの放出が上手に出来ていない状態、これがインスリン抵抗性、糖尿病、高脂血症、脂肪肝、動脈硬化に結びつくというわけです。肥満が様々な病気に結びつく、ということがいよいよはっきりしてきたというわけです。

このほかにも様々なパネル展示、資料など非常に勉強になる一般公開でした。来年もまたいってきたいと思います。以上(2004/7/12作成)

※このレポートは院長の受講した講演のレポートであり、大磯治療院と理化学研究所との関係はございませんので申し添えます。禁複製、禁配布お願い致します。


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