Topics | 26th June.2004 理化学研究所一般公開を見学してきました。〜その1〜 レポート:長谷川 尚哉 |
(セピア色にしてみました?) |
「理化学研究所の一般公開を見てきました」 |
〜いよいよ見学に〜 |
どうして行っているのか?これは簡単。免疫の反応を引き起こす分子の働きやその分子の挙動がわかれば免疫をコントロールする薬剤の開発に役立つからです。同研究所によると、免疫担当細胞のB細胞の膜上受容器が活性化された後、どのように細胞が増殖したり細胞がアトポーシス(細胞死)するか?メカニズムの検証を世界中がしのぎを削っているのだそうです。それについて明らかにすることがガンを効果的に攻撃したり、花粉症の様なアレルギーをコントロールしたりする為のヒントになるからです。なるほどじっくり読めばわかるパネル展示でした。理化学研究所と関西医科大学のプロジェクトチームがそのメカニズムを一部明らかにしました。なるほど〜。免疫に関わる不思議なシステムが小さな分子の連携により保たれている。人体は不思議な宇宙だな、と感じました。 |
くしゃみ鼻水はマスト細胞から放出されるヒスタミンの力により発生している 花粉症の時期になるとくしゃみ鼻水、マスク、ゴーグルが必需品の方が増えてきます。花粉症の原因はアレルゲンとなる「スギ花粉」の存在が必要。しかし、感作するまでには抗原認識、抗体産生という手順が踏まれている。その結果この抗体(ここではIgE抗体)が肥満細胞の膜上に結合して、再度入ってきた抗原と架橋すると「脱顆粒(ヒスタミン・ロイコトリエン・PAFなどの放出)」が起きます。これにより血管の透過性亢進(鼻水や涙目)などが引き起こされる、というわけ。こちらのパネルではヒトマスト細胞の様々な働きを研究し、マスト細胞自体がT細胞を活性化させる働きを持つことなども発見したのだそうです。このような研究も免疫のいいところを犠牲にしないで身体にいいお薬の開発に役立っているのですね。今迄は「ヒスタミンがかゆみを生むから『抗ヒスタミン剤』」という様なお薬の使い方、免疫が暴走するから「免疫を落とす薬(ステロイド剤)」となっていた。もっと身体に優しいお薬の開発が出来ればマスク、ゴーグル、ティッシュも持ち歩かなくてすむのかも。様々なチームが連携しあって研究をする、まさに日本の頭脳なのですね。おもしろそうです。 |
「オーダーメイド医療確立を目指して」を聴講 |
「オーダーメイド医療を目指して」〜講演要旨〜 レポート長谷川尚哉 平成16年6月26日、晴れ晴れとした天候の中、理研横浜研究所一般公開が行われた。13時よりの講演「オーダーメイド医療確立を目指して」と題された講演を聴くことが出来たので報告しようと思う。演者は中村祐輔先生。先生は大阪大学を卒業され、ガンを中心に執刀してきた消化器外科医で、米国ユタ大学ハワード・ヒューズ医学研究所、人類遺伝学教室助教授を経て、東京大学医学研究所ヒトゲノム解析センター長などを歴任、現在理化学研究所遺伝子多型研究センター・オーダーメイド医療開発プロジェクトグループグループディレクターを務めていらっしゃる。経歴に似合わず非常に温厚な雰囲気の先生であった。講演開始時間まで「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」のビデオ説明が行われ、文部科学省が実施しているこの研究のわかりやすい説明があった。中村先生はビデオの放映中に会場に入ってこられ、観衆の数人と談笑していらした。講演開始時間となり自己紹介をされた後、講演がはじまった。オーダーメイド医療確立についての先生の経験などをはじめとした有意義な講演となった。 |
先生は大阪大学を卒業され、大阪大学医学部付属病院、大阪堺市民病院などで外科医として診察をしていたそうだ。当時の担当ではガンが7割から8割と非常に多かった。しかし、ガンを取りたいと思っても多くはガンに敗北する日々であったそうだ。何度もやめようと感じたそうである。しかしそのたびに「ある患者」の日記を読み返し、元気づけられるのだそうだ。日記には自らの病気に関わる家族、医療スタッフらの支えによって成長する植物を自らにたとえた希望に満ちあふれた闘病時、死期が近づくにつれ、痛みもあったのだろう、ページを埋める字の大きさが大きく、そして力無くなり「明日がどうなるかわからない」といったあきらめとも思える気持ちがかかれていた。患者の悔しい思い、病に立ち向かうことが出来なくなりつつある自らの消えつつある生命力へのあきらめとも思える日記を読み返し、先生は「患者の悔しい思いを忘れずに研究に打ち込もう」と思うのだそうである。そして研究者への道を選ばれ、「なぜ、正常細胞がガンになるのか?」「なぜ、患者ごとに進行が大きく違うのか?」「なぜ一部に非常に重篤な副作用が出るのか?」などを調べ、そのカギが「遺伝子」にあるとわかってきたというのである。たとえば大腸ガンにおいては家族性大腸腺腫症のように優生遺伝をするものがあるのだそうだ。その発癌の機序がAPC(ガン抑制遺伝子)の不活性化が原因となる一種の「ドミノ倒し」のようにガン化していく、という遺伝子の異常を遺伝により引き継いだ事でガンが発生するのである、ということに言及された。しかしながらそのような遺伝的原因を孕んでいてもガン化した組織像は同じに見えるため、抗ガン剤を利用しても現場により、また患者により効き目はわからないという。その際、その患者の遺伝子を調べれば、たとえばA,B,Cの患者の遺伝子情報の異なりが、その患者に発生したガンの違いに結びつく可能性がある、というのが「オーダーメイド医療」のきっかけとなったのだそうだ。ゲノムをデータベース化することが出来ればヒトのパターンがわかり、また病気との関係がわかれば治療に応用できるというわけである。DNAは30億もの文字配列となっている四つの塩基の配列情報を持ち、情報を文字化すれば百科事典1000冊分に相当するのだそうだ。個人個人が見た目や体質において異なるのはその情報が異なるからであり、いわゆる太る体質、酒に強い、弱いなどの体質はそれにあたるという。体質の個体差はゲノムにより設計されているのである。また、AIDSにかかりやすい、かかりにくい、というのも遺伝の暗号の違いなのであるとの事だ。 30億もの遺伝暗号には3〜4万種の遺伝子情報があって、それにより人体に必要なタンパク質が誘導されている。タンパク質は3つの塩基の組み合わせで対応したアミノ酸を引き寄せる仕組みになっていて、誘導されているタンパク質は10〜20万種という。また情報には「いつ、どこで、どれだけ」というような調節を受けてタンパクが生成されている。このような仕組みが環境要因、体質要因などで壊れて一定のタンパクが過剰に生成されても病的であるし、全く生成されなくても病的となる。現在理化学研究所ではゲノムに関して疾患ごとのプロジェクトチームが形成され、それぞれ原因となる遺伝情報の確認を行い、疾患の発生の仕組みを明らかにしようとしているのだそうである。ここで先生は「体質」を家屋に、「環境」を地震にたとえて我々の身体が環境により影響を受けたり、環境要因ではびくともしない、個人差という表現でわかりやすく解説された。設計図でもある遺伝情報をもとに建築された家屋にも環境要因である地震により壊れる家とそうでない家があるのは、同じ環境要因によりダメージを受ける遺伝情報(=設計図)の影響が考えられるというわけである。遺伝情報はヒトゲノム計画と呼ばれるヒト遺伝子の全情報の解析という壮大な世界的プロジェクトによって判明してしまった。その中でヒトの性質(体質)に影響する300万から1000万といわれるスニップ(SNP:Single Nucleotide Polymorphism =一塩基多型)の解析において日本の理研は現在世界最速の解析能力を持っているという。そのために必要な血液は10ccという少量なのだそうだ。代表的なスニップである「酒酔い遺伝子(アルデヒド脱水素酵素)」を作り出すスニップの異なりは第12染色体上の遺伝子配列においてアデニンとグアニンの配列が異なるのみ、というたった一つの塩基の違いが影響するのだそうだ。それにより誘導される脱水素酵素の量や性質がアルデヒド脱水素能力の違いとなり、悪酔いしたり吐いたりする体質となってしまうのである。そのような体質的違いが病気にも存在することがわかってきた。理研のプロジェクトチームでは心筋梗塞、慢性関節性リウマチ、糖尿病性腎症のDNA多型の報告もしている。たとえばリウマチは関節上皮細胞の増殖が病態上重要だが、その免疫による特異的な攻撃にはIL-6が関わっているとされてきた。そのため炎症を抑えたり〜非ステロイド系抗炎症剤、免疫を抑える治療〜免疫抑制剤、ステロイド治療が中心となってきた。リウマトイド因子はリウマチの確定診断に用いられるが、1940年に発見されたIgGに対する抗体であり、陽性患者の40%程度がリウマチを発症し、リウマチ患者の70〜90%で陽性となるとされている。しかし、原因は不明とされ、研究が継続されていきた。理研の関節リウマチ関連遺伝子研究チームによれば体内のアルギニンをシトルリンに変える酵素を作り出すPADI4(Peptidylarginine deiminase type 4 )遺伝子と呼ばれるスニップ(第1染色体1p36領域)のタイプによりPADI4酵素(Peptidylarginine deiminas:ペプチジルアルギニン・デイミナーゼ4)が アルギニンを変換しシトルリン化させ、タンパクの立体構造が変化し、シトルリン化したタンパク質に対する自己抗体(抗シトルリン化ペプチド抗体)を作り出し、自己免疫が発生するのではないか?という仮説をたて、その遺伝子を同定した(2003年8月、米国の科学雑誌『Nature Gentics』 に掲載)。 このようにこれまで説明がなされないでいた部分をスニップという切り口で説明しようとする最先端の研究をしているというわけである。 さて、先生は次に「薬品の副作用の問題」に触れ、現在は副作用に対しては薬品の種類、量を変えることで対処しているが、効果が上がらず、副作用で苦しんでいる人が増えている、と指摘し、例としてスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS:Stevens-Johnson syndrome、皮膚粘膜眼症候群)またはライエル症候群(TEN:toxic epidermal necrolysis、中毒性表皮壊死症) を挙げ説明された。SJSは様々な薬剤の副作用が過剰になる疾患だが、日本では年に300名程度発症している。昔は体質であるとあきらめざるを得なかったが、この病態は「薬そのもの、薬の使い方、患者の体質・体調」の三つの条件に支配されている、と指摘し、さらに「私は薬に殺される(福田実著 幻冬舎刊)」を紹介された。後に調べたところによればエリートサラリーマンが高脂血症に処方された2種の薬剤の薬害より横紋筋融解症に倒れ、副作用の説明や適切な検査が行われなかったことを訴え、医師とも病気とも闘い続ける という書物である。このように薬を投与することは医師の処方薬であれ、家庭用医薬品であれ、その服用には必ずリスクが伴う、ということを「クスリはリスク」という言葉で述べられた。まさに「体質だから仕方がない」という時代ではないということであるのだろう。そのような情報が蓄積され、副作用が発生しにくいクスリ選び、治療法の選択が出来れば、どれだけ副作用の苦しみから救われる人が出るのだろうと感じた。 続いて薬について触れられた。薬は「吸収」「分布」「排泄」によって左右される。これらのファクターのどの部分が過不足となっても問題となる。吸収がされなければ効果は望めないし、吸収が早すぎれば組織に影響を与えることもあり得る。分布も急激にある組織の分布が高すぎても、効果を及ぼす組織に一定の濃度が分布しなくても問題となる。もちろん排泄が早すぎれば効果の持続性に問題が出るし、遅すぎれば蓄積障害にも成り得る。これらを薬物動態と呼ぶ。投薬の処方量はそのような点から決定されている。これらは統計学的処理を行い、承認された処方量が適用されているのである。しかし、承認された処方量でも副作用が出てしまう例が必ずあるのだそうである。これは医療家、薬品メーカーからは「体質が異常だから」といわれて処方薬を変更するぐらいしかなすすべがないのが現状であった。BM Silberらの報告によれば喘息薬の40〜75%、抗ガン剤の70〜100%、鬱病の20〜40%が無効なのだそうだ。それでもそれらの薬は動物実験、臨床実験などのデータで承認されれば「何々薬」として認可されてしまうのである。喘息などは患者の遺伝子のタイプで効果が全く異なるのだそうだ。それは表に出ている症状に至る系路がいくつもあり、薬はそのうちのどれかに作用する仕組みになっているからである。つまり全く異なる系路で症状が起こっている患者にはその薬は作用しない・・というわけである。現代の医学は「割合によってこの薬はよい」と決めてきた、と先生は述べられた。 |
薬品Xよりも薬品Yの方が4/10有効なので薬品Yが有用な薬品であると評価される。しかし、それにより薬品Xが有効であったa,bさんは治療方法を失うこととなる。 |
左の図の様にある疾患に有効と考えられる薬品X、Yを臨床試験するとする。10例(これはあくまでもたとえだが)の中で薬品Xは2例、薬品Yは4例有効者があったと報告されると、「その疾患に有効な薬品はYである」と認定されてしまう。しかし、薬品Xで有効だったa,bさんは有効な治療手段を失うことになる。a,bさんは薬品Yは無効な患者さんであり、g,h,i,jさんも無効な患者さんである。しかもその薬品における副作用が強く出る可能性がある患者さんも発生し得る。というわけである。この様な仕組みで有効な治療を逃してしまっている患者さんはいないのか?と先生は問いかけている様に感じた。ではなぜそのような薬品の違いで有効者が異なるのか? |
これは薬品の効果が及ぼされる部位での患者の体質の違いなのではないか?少なくとも調査する意味合いはあるだろう。もしも薬品Xはa,bさんに有効で、a,bさんに特有な遺伝子的特徴が存在すればその薬品はa,bさんに特有な有効性があることとなる。薬品Yも同様である。そのように薬品に遺伝子多型ごとの有効情報を付加することが出来れば(そのような研究が行われれば)無効な薬を「その疾患にはこの薬」といって単純に副作用のリスクを孕みながら服用することなくより安全に有効な薬を選択できるのではないかということである。 2003年11月3日にFDA(米食品医薬品局 )は「遺伝子も含む副作用を調べるべき」とのガイダンスを出した。薬品の副作用には患者の遺伝子を含む様々な体質的問題が背景に存在するのではないか?と問いかけている。また、日本では「イレッサ/ゲフィチニブ / ZD 1839 / gefitinib 」に関する問題が挙げられた。イレッサは2002年7月に発売され、同年8月に国内で薬価収載された手術不能又は再発非小細胞肺癌 に用いられた薬品である。日本人においては副作用評価対象例 51 例中 50 例( 98.0 % )に副作用が認められ、主な副作用は、発疹 32 例( 62.7 % )、下痢 25 例( 49.0 % )、そう痒症 25 例( 49.0 % )、皮膚乾燥 17 例( 33.3 % )等であった。 外国の副作用集計では副作用例が73.1%(以上アストラゼネカ株式会社 提出資料より)であることから日本人には副作用が出やすいと考えるべきであろう。医師は承認された医薬品イレッサを用いて有効例となりそうな300名/1000名を探すこととなる。しかし、投与を続ければ続けるほど10名/1000名の確率で生命に関わる副作用が出るという現実を目の当たりにすることになる、というわけである。実際、現実は抗ガン剤は「やってみてなんぼ」の世界であり、今ではイレッサでは副作用に注意する様になって20〜30%が有効になる様になってきた。しかし、遺伝子で有効性を想定できる様になってきたとのことである。さらに先生はガン細胞自体の遺伝子の特性を調べ、抗ガン剤の有効性を定数化しようとしているそうである。この様に21世紀型オーダーメイド医療をを実現したいと先生は述べられた。 さて、遺伝子の情報に関しても光と影がありそうである。 米上院は2003年10月14日、健康保険への加入や就職・解雇の際、保険会社や雇用主が個人の遺伝情報を判断材料として使うことを禁止する法案を95対0(棄権5)で可決した。連邦レベルの規制がない現状では遺伝子の違いで差別するケースがあり、それを恐れるあまり必要な検査を受けない人も少なくない。法案が成立すれば、病気の早期治療や遺伝子研究の進展につながると期待されている。法案は、保険会社に対し、加入希望者の遺伝情報を事前に調べることを禁じた。遺伝情報をもとに加入を拒否することはもちろん、保険料割引などで加入者を「区別」することも認められない(以上、朝日新聞より)。 この様に遺伝情報が明らかになるにつれ、その情報をもとに人(世界中に一つしかない遺伝子情報を持つ)を差別することはいけない、という判断が下されているのである。先生はスニップならぬ「スマップ」の「世界に一つだけの花」の歌詞を引用し、これが遺伝子の話と符合する、と述べられた。 約1時間という限られた時間で、様々な情報をわかりやすく、的確に説明された中村先生。先生の様な方が日本の医学を牽引していかれればいいな、と感じる有意義な講演だった。日本におけるオーダーメイド医療の確立のために様々な対象疾患の方々が少量の血液を提供し、未来の、新しい医療が花開く日が来ることを待ち遠しく感じた。興味のある方はオーダーメイド医療実現化プロジェクトまでアクセスして頂きたい。 以上(2004年7月2日作成) ※このレポートは院長の受講した講演のレポートであり、大磯治療院と理化学研究所との関係はございませんので申し添えます。禁複製、禁配布お願い致します。 |
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