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26th Oct.2003

学術講習会(過去分)水嶋先生&石川先生

レポート:長谷川 尚哉

「 神奈川県鍼灸マッサージ師会主催「第3回学術講習会」
去る10月26日、神奈川県中郡二宮町の二宮町社会福祉センターにおいて財団法人 東洋療法研修試験財団認定研修会である第3回学術講習会が行われた。当日は秋晴れの中七十余名の参加があり、有意義な研修会となったので以下に報告する。

 1) 午後1時〜3時

     演題 「自律神経と鍼灸手技療法」

     講師  水嶋クリニック 院長 水嶋 丈雄 先生

    *自律神経からみた鍼灸手技療法を中心に、パーキンソン病の

     治療等経穴の選択まで具体的に解説いたします。

 2) 午後3時〜5時

     演題 「複雑系としての自然と21世紀の医療」

     講師  国際基督教大学名誉教授 理学博士 石川 光男 先生

    *生活習慣病に対する健康管理法等、食物の陰陽のバランスや

     血液の変化など科学的に解説していきます。

〜 「自律神経と鍼灸手技療法」 〜
演者は長野県の水嶋クリニック院長、水嶋丈雄氏。氏は兵藤正義先生に師事し東洋医学を学ばれた医師である。近年TV出演などで多忙な日々を送られているそうだが、この度は我々の講習のためにお越し頂いた。講義はプロジェクタを利用し、またはっきりとした明確な語り口で我々を飽きさせない、すばらしい講義であった。まずは「原因不明の白血球減少」とのタイトルで、鍼灸医療にて8番鍼による強刺激を受けていた58才女性の易感染性、倦怠感を来した例であった。鍼灸施術開始後、優位に白血球数が低下し、そのために発生した易感染性であると推測されたが、氏の鍼灸施術中止の指示により白血球数は正常値に戻った、とのことであった。 この話題をきっかけに「白血球の自律神経支配理論」を解説、交感神経優位で発生する顆粒球の増加とリンパ球の減少、副交感神経優位で発生するリンパ球の増加と顆粒球の減少が起こりえることを説明された。佐久市の平均寿命が高いことに言及し、70才以上の男女のリンパ球、顆粒球の比率を検証、新潟市と比してリンパ球レベルが男女ともに40%を上回り、平均寿命の長さとリンパ球の高比率の関連を示唆した。リンパ球は免疫担当細胞の中でもウイルス感染やガン細胞などの免疫をつかさどる白血球である。

医療的に行われる感染症、リウマチなどではステロイド剤を多く利用する現状を示し、これらは免疫系を抑制するほかに、生体内で酸化ステロールとなり交感神経刺激をすることで血流障害を引き起こす、との機序を説明された。一方、リウマチ、腰痛、ヘルニアなどを例示し、免疫抑制を起こさない、また血流障害を発生させない治療法として「鍼灸マッサージ療法」を推奨された。我々が陥りがちになる「阿是穴」治療は交感神経を優位にさせるため、疼痛の緩和は行うが、リバウンドが発生するなどと指摘し、体表表面から4mm程度の刺入である副交感神経刺激法(浅刺、呼気、臥位、補法、心拍数と同じパルス通電)が血液中のリンパ球(th1、ほか)レベルを高めた、との報告をされた。同法を利用し、c型肝炎の臨床例を用い、26例中18例にウイルス減少、または消失の事実を取り上げ、氏の実践する副交感神経刺激がウイルス性の疾患への応用も可能となっている、との示唆に富んだ報告をされた。その後、経穴の作用、近位作用、弁証などにも言及し、「鍼灸大成」を読むこと、「難経」を読むことなど前人にならった鍼灸手技療法を会得することが東洋医学の担い手として必要である、とまとめられた。東洋医学の本質は「体を自律神経から変化させる技術と知識の重要性」であると述べられ、先の阿是穴治療に代表されるような交感神経刺激だけの治療家となってはいけないとも述べられた。またパーキンソン病への鍼灸治療へのアプローチでは実際の刺入点(頭鍼、天柱、大杼、脾兪、胃兪、足三里)、および頭皮針の刺入のコツ、鍼先の感覚に至るまでご教授され、刺入感の変化など細かなご指導があったことは特筆に値すると思う。

2時間という時間の短さが印象に残る内容の濃い講演であり、質問が飛び交ったが、惜しくも時間切れで講演は終了となった。今後機会があれば再度お呼びし、様々な実例をお伺いしたいと感じた。      以上 


「複雑系としての自然と21世紀の医療」
演者は国際基督教大学名誉教授の石川光男氏。氏は北海道大学理学部卒の理学博士であり、国際基督教大学理学科教授を経て同大学名誉教授をされた。日本においてのホリスティック医学の先駆けでもある「日本ホリスティック医学協会」の顧問をつとめられている。この度は複雑系をキーワードに様々な文化における科学的自然観をわかりやすくご説明頂いた。そのテーマは我々東洋医学を学び、実践するものにとって非常に意義深く、また興味深いものであった。最初に日本の戦後における生活習慣病罹患率の変遷を述べられ、これらに大きく影響した欧米型食生活の導入が結果として生活習慣病罹患率を上昇させたとの背景をもとに、近代科学の非連続的世界観の解説、および歴史上の出来事などを列挙され、欧米型非連続的世界観が還元主義に端を発している、との指摘があった。
これは栄養素、という概念を用いたことで我が国民の食生活は還元主義的に傾き、特定栄養素の摂取、それらの有効性を追求したが為に身体的平均値が欧米に近づいたが、結果として生活習慣病への罹患率があがることになったというものであった。歴史上、確かに日本人の生活水準は向上したし、身体の成長も世界と比してまっとうなものとなったが、疾患としては生活習慣病罹患率の上昇で明らかなように、欧米型に近づいてきたとのコメントであった。さらにそれら「還元主義追求」の疲弊が世界的に「ホリスティック(全人的)」で、連続的な概念の希求につながったと指摘された。ホリスティックの概念にも言及され、全体的な、より連続的な世界観は東アジアに特有な還元主義とは一線を画したものであると述べた。次に複雑系と呼ばれる新しいパラダイムの発生に至る歴史的流れを説明頂き、物理学、科学の先端で起きている出来事の説明をされた。複雑系はある意味予測不能な還元的な結論を見いだせない概念であり、素数、複素数などといった境界が無限大になる集合体をさし、それらをコンピュータ処理により導き出した新しい概念であるといえる。それらはまるで理解しがたい物理学の定義のようだが、実は東洋医学の根底に流れる「陰陽の哲学」に非常に合致している。「陰中の陽、陽中の陰」「五行の関わり」につながるような哲学的概念に近い。還元主義の最たるものはヒトゲノムの解析に代表されるような根本原理を探す旅であり、複雑系はそれらをさらに包括した完成系としてのヒトを見ているようなものなのである。氏はさらに「いのち」と呼ばれる概念モデルを提示され、それを「開放形や複雑系が自然に秩序をつくるいとなみ」と定義され、これは日本においては「神道」に似ていると述べた。
東洋の哲学においては自然を知るために還元指向を選択するのではなく、自然自体から学び、生かし、従う、という独自のものであることを提示された。講義は時間的にぎりぎり、というところまでご説明頂き、有意義な講義であったと思う。講義後、有志による懇話会が行われ、我が国が抱える健康問題、教育問題など様々な視点からディスカッションが行われた。非常に有意義で、また興味深い講演であった。           以上

 


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