アロマテラピーと感冒に関する考察

 

                            Therapist Guild Japan

                            主宰  長谷川 尚哉

                            2000.12/22報告

今回は流行性感冒への塗布用とされているレシピの解析を行った。

○感冒に関する病体把握の必要性

一般に熱発、上気道症状、全身虚脱感、咽痛、鼻閉などの症状を来すと、「かぜをひいた」、と感じる場合が多いのだが、病態上は以下のように分類される。

かぜ症候群

急性で軽少な普通感冒、成因は寒気暴露、自立調節失調などの状況にライノウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、などの上気道感染が加わったもの。熱発は38℃程度、倦怠感、頭痛、咽頭痛、鼻閉、鼻漏など、数日で軽快。

インフルエンザ 

気道の症状のほかに高熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などが加わる。インフルエンザウイルス(A,B,Cその他)の感染によるもの。A型は10年ごとに世界的大流行を起こすことで知られている。B型はA型に比して軽症、C型は発生も少なく、さらに軽症である。ワクチンの利用に関しては様々な議論がなされているが、十分な結論を得ていない、とされている。

通常は熱発、鼻閉で内科への診療、投薬治療を受けるが、多くは解熱、鎮痛剤となる。

熱発が軽度の場合、一般薬局での感冒薬の選択、及び安静で2,もしくは3日で平熱へ復するといわれている。内科診療の際はおおむね38℃程度の発熱で受診する場合が多いが、抗生物質(ペニシリン系:細菌感染、細菌細胞壁を破壊する作用、 セフェム系:細菌細胞壁を破壊する作用、マクロライド系、テトラサイクリン系:病原微生物の生育に必要な蛋白の合成を阻害、その他{セフェム系が最多})、抗ウイルス剤、解熱鎮痛剤が利用されている。一方、一般薬局で利用されている、解熱鎮痛薬ではアセトアミノフェン(体温調節中枢、神経中枢に働きかけ、解熱を行う)、エテンザミド、イブプロフェン(アスピリンより解熱作用が強い)などが配合された総合感冒薬、漢方混合薬(葛根湯、桂枝加葛根湯など)が多く利用されている。これらはその症状への作用機序として、以下のようなものを持つと考えることが可能である。

1)感染病原体に作用するもの 

感染病原体を減らす(または増殖を押さえる)ことは、免疫応答の負担度を減らすことが考えられる。

2)生体の調整機構、及び症候そのものに作用するもの

免疫応答の結果、体温調節中枢が体温を高温にセットしたことで発現している高体温状態を改善することにより、患者の感じる愁訴を改善することを目標にしていると考えられる。

上記の投薬が現在かぜ症候群への感染後に行われる化学療法である。一方、予防を考慮したワクチン療法があることを忘れてはならない。インフルエンザワクチンは生体内に生弱毒性微生物を含んだ生ワクチン、不活性化微生物、微生物の感染防御抗原を含んだ不活性化ワクチンがあり、「予防接種」として利用されている。これらは感染の拡大が懸念される年次、季節、病原体などにより健常者に接種する事で能動的に免疫活性を高めることが目的である。

○アロマテラピーでのかぜ症候群への考え方。

アロマテラピーの関連文献ではかぜの定義への解説が少ないばかりか、その症状へ対する精油の選択も様々なものにわたり、曖昧なものになっている。ハーブの伝承、漢方などの知識を考慮したと考えられる解熱作用を期待した精油が用いられることは英国のアロマセラピーでは少ない。これは英国風が飲用を容認しない方向性を持っているからではないかと考えられる。精油の内服例ではCinnamomum zeylanicumを利用することが検討できる。これは漢方薬理学上シンナムアルデヒドに解熱鎮痛作用が認められているからである。しかし、経皮可塑性が強いことから、英国風では利用しなかったのではないかと考えられる。しかし、仏アロマテラピーではフェノール系の成分構成を持つ精油の組み合わせを内服、経直腸投与で指定している。これらは抗感染を意図したものであると考えることが出来る。仏での抗感染へリストされている精油は以下のようなものである。Cinnamomum zeylanicum、Eucalyptus globulus、Melaleuca quinquenervia、Hyssopus officinalis、Rosmarinus officinalis b.s. bornyl acetate, verbenone、Artemisia dracunculus、Thymus vulgarisツヤノール、チモール、など。

I.A.Rよりのレシピでは、ここでは経皮塗布用のものを解析したが、ここにはフェノールは含まれていなかった。構成成分の最大量をしめるのはオキサイドであり、その他の成分などを検討しても解熱鎮痛などの作用が期待されるものは含まれていなかった。また、I.A.Rより以前の「完全マニュアル」(ヌーベルアロマテラピー、Philippe Mailhebiau著)を参考にしていると考えられるレシピ(感冒2)ではさらにオキサイド類が多かった。また感冒予防用とされているエスクレープでもほぼ同様の混合であるが、Eugenia caryophyllataが含まれることからオイゲノールの存在が考えられる。オイゲノールは殺菌、抗ウイルスが立証されている。これらから、レシピでは症状へのアプローチを中心としているのではなく、気道への欝滞除去を中心にした作用を期待しているのではないかと考えられる。

○追加することが可能な精油

食添の認可を受けている前提ではCinnamomum zeylanicum、Citrus limonumの等量の組み合わせを考えたい。この混合ではアロマタブレットでの内服がたやすく、小児でも喜ばれることを特記したい。アロマタブレットへ各精油を一滴滴下し、小児では半量、大人では全量を飲用する。これは解熱というより清涼といった範疇に属するのだろうが、筆者の経験では熱発感がなくなり、身体の節々の痛みなどは軽快した。(継続はあまり長くない。毎食前がいいようであった)

 

※講演時間3時間、集計資料、植物学などレポートを含む。

 

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