アロマテラピーと気管支炎に関する考察

 

                            Therapist Guild Japan

                            主宰  長谷川 尚哉

                            2001.1/26報告

メディカルアロマテラピー研究会では今回アロマテラピーと気管支炎と題して研究報告を行うが、I.A.Rよりのレシピ解析にあたっては解析を行うにつれそのレシピに期待される成分構成上の一定の法則性が向けられるようになってきた。精油の作用機序を考える場合、その成分構成に行き着くのは分析表が公表されることとなった事が大きな要因として考えられる。その為、学問としての追試が可能なレベルを満たしてきたと考えてよいだろう。しかしながら様々な文献では、ある一定の精油を利用することが特定の症状に効果があるとしていながら、その成分構成などが明らかでなく、追試を行うことが出来なかった。分析表を追い求めることはアロマテラピーがオルタネイティブメディスンとして検証されるための序章なのではないかと考える。

 ここではI.A.Rより「気管支炎および気管炎」とされているレシピの解析を行った。

1)レシピの検証

 これまでの研究会の中で行われた検証では、感冒(完全マニュアル、I.A.R)、耳炎があるが、いわゆる感染症対応のレシピには一定の法則性を見いだすことが出来そうである(OHP参照)。これまで取り扱った精油は、Ravensara aromatica、Melaleuca quinquenervia、Rosmarinus officinalis1,8cineole、Eucalyptus radiata、Lavandula hybrida abrialis、Eucalyptus globulus、Mentha piperita L.、Myrtus communis、Laurus nobilisであるが、そのレシピの中で比重をとっていた精油の主たる特徴成分が1,8cineoleであり、その他、モノテルペノール、モノテルペンに比重のある精油が多いことである。これらは過去に検討したレシピの成分構成で明らかであり、研究上理解されている1,8cineoleの作用「ムチン分泌線刺激、及び呼吸器粘膜の繊毛運動促進」を期待していると考えることが可能であろう。レシピにおける1,8cineoleの比率は37.96〜57.98%であり、約20%の開きがあった。それに対して今回の気管支炎レシピではよりモノテルペン及びモノテルペノールの比率が高い。それらの意味合いを検討することが必要であろう。

2)気管支炎の病理、病態

 気管支炎は一般には「気管支主幹部から終末細気管支にまで生じる急性、または慢性の炎症性病変」と理解されている。急性の気管支炎は感冒、インフルエンザ、特に麻疹、百日咳などのウイルス性上気道炎に続発し、それらの感染後の細菌感染によって生じるとされている。これは免疫系が上気道炎、免疫不全などで防御系が弱体化した結果、気管支への細菌感染が引き起こされることが原因となる(感染原因菌は口腔内細菌など)。通常、気管支幹部はリゾチーム(消炎酵素(蛋白)、分泌型IgA(全Ig中12〜13%、血清及び外分泌液中に存在するIgA、半減期5〜6日)、オプソニン(液性免疫で免疫食菌作用(貪食)を高める物質の総称、感染初期の防御因子として重要)等による自然免疫による生体防御の活性の高い部位でもあり、それらの担当部位でもある気管支粘膜壁の変形、変性によって気管支の粘膜機能の失調が気管支炎へ至る病理であるといえる。漿液性カタル症状では咳反射を繰り返し、排痰が出来ない状態では気管支内腔を閉塞する事もあるとされている。またそれら、気管支炎症状が宿主の状態や細菌の毒性によっては「細菌性肺炎」へ至る場合もあり得る。「細菌性肺炎」では起炎菌に「肺炎菌、肺炎桿菌、化膿性ブドウ球菌、クレブシエラ菌、ヘモフィルス菌、大腸菌、バクテロイド菌、化膿性溶連菌、結核菌など」があげられている。細菌の感染は宿主の炎症細胞による酵素系の侵襲、それによる細菌内よりのオプソニン誘導により貪食細胞により貪食されるという転帰で終了するが、これらは宿主の炎症能、免疫力によりその時間的影響を受けることとなる。

 これらへのアプローチとして開発された薬剤が抗生物質であったといういきさつが薬品開発の歴史にあるわけであるが、抗生物質以前、オーストラリア軍でのMelaleuca alternifoliaの利用、インドシナ戦争でのJ.valnet(医師)による精油の利用などといった、細菌感染や創傷部の清浄に対するアロマテラピーの初期での利用法として受け入れられた歴史は現在のアロマテラピーの処方論に活かされていると考えることは可能なのではないか?

 一方、アロマテラピー領域ではその「レシピ主義」が「ある特定の症状へ利用されるある特定の精油の組み合わせ」を求めるアロマテラピー愛好家のニーズにかなう形で提示された。さらに、アロマテラピーではそれに利用される精油の分析学的アプローチの曖昧さから、また考案者のそれらに対する無頓着さから「これにはこれ」といった風潮を生むことになったことを理解しなければならない。しかしながら当、研究会による一定の検証の結果、精油の感染症に対する処方理論にはある種の類似性があることが示唆された。これにより、その類似性から考慮できる無限大にも等しい精油の組み合わせの可能性を検討することの意義が見いだされたと考えることが出来そうである。また、今回検証されたレシピの構成成分と似通った単独の精油でも一定の成績を収められるのではないか?といった可能性、および、その構成成分に似通った組み合わせで精油の選択が可能であれば患者の香りの嗜好性に則した全くオリジナルともいえる組み合わせの検討が可能になるかもしれない、といったことが示唆される。今後の検証を期待したい。

 

※講演時間3時間、集計資料、植物学などレポートを含む。

 

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